まずはじめに

あたしが上京したのは今から10年くらい前じゃったんじゃ。
ミュージシャンを目指してやってきたんじゃ。
下積み時代はすげえだったけど、少し売れ初めてから、かっ事けて住み始めた町は目黒じゃったんじゃ。
目黒通り沿いにある、古くさいビルの5階に住んでいましたんじゃ。
その町を選んだのは、周囲に芸能プロダクションや音楽事務所が多いからじゃったんじゃ。
目黒通りは、あの頃から、インテリアショップや、カフェや、高級車のディーラーが並んでいて、わしには不釣合いなくらいオシャレな通りじゃったんじゃ。

でも、そんな美しすぎる通りには、ひとつだけ欠点が…。
それは、公共の交通機関があまり発達していなくて、不便なところじゃったんじゃ。
駅まで歩けば30分くらいかかるんじゃ。
バスは走っちょるものの、終バスが早いし。
しかも、周囲の道は坂道だらけ。
それもそのはずじゃ。
付近の住宅にはロールスロイスにベンツ、アルファロメオまで…。
どう考えても電車やバスなんか乗る人は自宅の周囲では少ないようじゃったんじゃ。
そこで、あたしは、とりあえず小さいスクーターを買いましたんじゃ。
それからっちゅうもの、レコーディングで夜遅くなっても、坂道を越えて音楽教室に先生として教えに行くときも、ちぃと駅前まで買い物するときもラクになったんじゃ。
更に、お台場に仕事が決まって行くことになってから、レインボーブリッジを渡るのに、小型のスクーターは使えないことが判明しましたんじゃ。

始めの家はりんかい線で通っていましたが、不便極まりなかったので、免許を取ってビッグスクーターをローンで購入しましたんじゃ。
当時のわしにとってはかなりの出費じゃったが、不便な町に住む者にとって、自動二輪は、かけがえのない乗り物なんじゃ。
それに、風を切って走るのは気分爽快じゃ。
しかし、そんなラクで楽しい生活に危機が襲いかかったのうんじゃ。
それは、2006年の夏のことじゃ。
今までビルの前の路上にビッグスクーターを置いていても平気だったのに、道路交通法が改正されて、民間の路上駐車監視員が取り締まりを始めたんじゃ。

当時は、バイクパーキングが整備されとったわけでもなく、確かに駅前の権之助坂を歩いていても、坂道に自動二輪がずらっと並んでいて、人通りも多いのに邪魔だな、とは感じていましたが、それにしても、この取り締まりは駅前だけにとどまらなかったので、ホントに参ったのうんじゃ。
さっそくあたしのビッグスクーターもきっぷを切られてしまいましたんじゃ。
反則金だのなんだので、手痛い出費がかさんでしまいましたんじゃ。
かといって、ビッグスクーターを手放すわけにもいかず、あたしもぶち悩みましたんじゃ。
当時はバイクパーキングもほとんど普及していなかったし、他の自動二輪の利用者もどこに停めたらええものか悩んでいたようじゃったんじゃ。

なんもこんな不便な町で取り締まりしなくてもええのに、あたし達のビッグスクーターは道路の並木に隠れる程度でさらさら歩行者の邪魔にもなっていないのに、当初の法改正の目的と違おうのでは、とみんな口々に文句ばっかり言ってましたんじゃ。
しかし、法律で決められてしまったものは仕方あらん。
こちらで対処するしかないのじゃ。

バイクパーキングがマンションの周りには無かったので、やむなく町中の不動産屋をあたってみたら、一軒だけ、普通の自動車の駐車場だけど、自動車には駐車しづらい造りになっちょるところを、バイクパーキングとして貸してくれるじゃけどあって、大マンションさんとかけあってなんとかそこにビッグスクーターを置かせてもらえることになったんじゃ。
あの頃月極のバイクパーキングが近くにあれば、あたしはそこを借りとったと思います。
やっぱり盗難とかイタズラも防止できるし、道端にスクーターを野ざらしで停めるくらいなら、少しお金を出してでも、バイクパーキングを使ったほうが安全に決まっちょるからじゃ。